くまゆうむ

YMOりあるたいむへんたいよいこくまゆうこころとめでぃあの日記改め

月に向かってペダルをこぐ

こないだの夜ちゃりで街を流してたら笑ぃ
それぁ見事なでっかいお月さまに向かって走ってたことに夜空を見上げて気づく。
そして次回作のタイトル決定、月に向かってペダルをこぐ。タイトルだけ泣笑。
ふんでもって月明かりで思い出した、むかし書いたラヴストーリー再び。
『ミニスカでレスカを運ぶ女の子 リスカという名で十七で 』
前にhttp://d.hatena.ne.jp/kumayou666/20060731#p3で載せた
ラヴストーリーsceneⅥ『Only one Only love』もそうだけど
きよきよにお題というかヒントというかそういうのをもらって書けた物語。
『Only one Only love』は、それまでかなりダークサイドな
ラヴストーリーばかり書いてきたあちきに、ハッピーエンドのストーリーも
読んでみたいて言ってくれてそれで出来上がった話。
『ミニスカでレスカを運ぶ女の子 リスカという名で十七で 』の方は
きよきよがイラストを書いてくれてそっからインスパイアして書いてみてて
言ってくれて生まれたストーリー。その昔、きよきよと何をしていたか、
それはまた次のおはなし。今夜はリスカの物語りをば。


2000/10/27  * ラヴストーリー The Other Side *




― ミニスカでレスカを運ぶ女の子 リスカという名で十七で ―




リスカは今日もレスカを運ぶ
古ぼけた味のあるカフェで
くる日もくる日も
馴染みの客や通りすがりの客
せっせとせっと働いて
ある日いちげんさんがふらりと入ってきた
年の頃ならリスカより十は上か
ごくフツウのような其の男は
けれどもどこかこの世から浮いてるやうな
そんな雰囲気をただよわせ
店のいちばん奥まった 外の景色が
よく見える席に座りレスカをひとつ と注文した


かしこまりました 
リスカはいつものとおり
マスターにオーダーを伝え
またいつものようにグラスを磨く


ハイ レスカあがり


マスターの声に我に返り
男の元へレスカを運ぶ
お待たせいたしました
今日はいつもにも増してヒマだった
店のホールはリスカと男とふたりきり
リスカはぼんやりまたグラスを磨く
男もぼんやりレスカを少しづつゴクリゴクリ
店の中はうすぼんやりした時が過ぎて行く
ふと気づけば男がレジのところに立っていた
ああいけない リスカは慌てて会計する


ありがとうございました


男は無表情に店を後にする
後片付けにテーブルへ向かったリスカ
いつもと何かが違うと腑に落ちない
ああ そうだ さくらんぼがどこにも無い
あの毒々しい色したさくらんぼが
食べた後の種もツルさえも無い
どこか何かが心にひっかかったまま
其の日いちにちリスカはうわの空だった




次の日なぜかまた男が店に現れた
昨日と同じちょうど夕焼けが目に染みる頃
再び同じ席に座りまた注文したのはレスカ
いけないと思いつつリスカさくらんぼが
どうなるかそっと男を疑視していた
男はレスカを少しづづ飲みほすと
テーブルの上のナプキンにさくらんぼを
それは大切そうに包んで上着のポケットにしまった
リスカはなんだか見てはいけないものを見てしまった
そんな気持ちになりながら男のことが気になりはぢめた


それから来る日も来る日も男は店に通い
レスカを注文してはさくらんぼを持ち帰る
レスカはある日とうとう我慢できなくなり
次の日もまた男が来たら後をつけてみようと思い立ち
マスターには早上がりさせてもらいたいと申し出た
あくる日もやはり男が現れてリスカは男が店を出た後
とても急いで同じように店を出た




男はのろのろと宙を泳いでるように歩いて
少し離れたうら寂しい公園にたどり着く
リスカは気付かれぬやう木陰から男を見つめる
男はポケットから取り出したナプキンから
大事そうにさくらんぼを取り出し
パクっとさくらんぼを食べ種とツルを土に埋めた


それからも男は毎日店に来た 
マスターもいぶかしがっている
1か月も経とうとするある日またリスカは男が店を出た後
後をつけた今日こそ男に声をかけてみようと決め
公園でさくらんぼを土に埋め立ち上がったところを
リスカは思いきって話しかけた


「あの、何をしてらっしゃるのですか」
男は突然のリスカの出現にひどく驚き狼狽した
「あの、ごめんなさい驚かすつもりも悪気も無いのです
 ただとてもあなたが気になって…‥」
男はリスカの瞳をじっと見つめる
「あなたは、あの店の方ですね」
「はい、さくらんぼが無くなるのが気になって」
男はリスカのまっすぐな清らかな瞳を見つめて
静かに話はじめた




「2か月ほど前のことでした。
 私にはとても愛してる女性がおりました。
 その日私達はドライブを楽しんでおりました。
 けれども前を走っていた大きなトラックが荷崩れを起こし
 長い大きな鉄板のようなものがフロントガラスを突き破り
 突っ込んで来たのです。けれども位置がづれ
 私はすり傷程度で済みました」


男はそこまで淡々と一息に話した


「けれども気付いた時には助手席の彼女の首は
 無くなっていました」
リスカはなんと言っていいか判らずただ黙って聞いていた
「彼女はレスカが好きだった
 そしてレスカに入ってるさくらんぼも好きだった」
「あの、私も今度一緒にここに来てもいいですか」
リスカは自分でも驚くようなことを言っていた
「いいですけど、おもしろいですか、こんなことにつき合って」
「おもしろいというか…‥」
「いえ、別にあなたが面白半分でないような気はします」
「ではまた」
そう言って男は去って行った
リスカは一人小さな土の盛り上がった場所をうすぼんやり
見つめながらたたずんでいた




それからも男は店に来てはレスカを飲みほし
さくらんぼを土に埋めた
リスカもたまに一緒に公園に行っては
土に埋めるのを手伝った


それからまた1か月ほど経ったある日
男は再びポケットから取り出したさくらんぼを
口にした時ひとつぶの涙がぽろっと落ちた
男はさくらんぼを食べ泣いた
男は愛する人を目の前で失ってから初めて泣けた
やっと彼女はもうこの世にいないことが理解できて
激しく嗚咽して泣いた
横に居たリスカも泣いた


「これからは私が一緒にさくらんぼを食べます、あなたと。
 あなたの哀しみを埋めてあげたいのです」




そしてふたりは公園でいつまでも泣いた
月の黄色い光に照らされて



― ミニスカでレスカを運ぶ女の子

        リスカという名で十七で

                十七の秋に恋をした ―