くまゆうむ

YMOりあるたいむへんたいよいこくまゆうこころとめでぃあの日記改め

書きたくなってきた

昔、くま頁やってた頃に小説のようなものをいくつか
あっぷしてたことがあった。きょうそれを保存したファイルを
なぜか発見してべっくら。何度もHDD吹っ飛んだりしたのに
その危機をくぐりぬけて無事だったことになぜか苦笑。
つい最近、そういへばもう書かなくなって何年だろ。とか
思ったりしてた矢先のことでやっぱこら書けてことかなのか
とか思ったり思わなかったり。ちうか書きたいけどなんか書けない。
なんであの頃あんな書けたんだろ。簡単さ、恋するチカラが
キーを打つ指をつき動かしてたのら。プ。今思うとプゲラ。
でも、それもまたおもひで。今度はいつ書けるんだろ。
とりあえずリハビリで昔書いたのさらしとこう今読むとイタイけど泣笑。
はてなコードにひっかからない程度のを笑ぃ。




2000/08/17  * ラヴストーリー sceneⅥ *


― Only one Only love ―




アキオと出逢ったのは、ちょうどこんな暑くなりはじめの季節だった。
そりゃ出逢いのシチュエーションとしては他人に言わせりゃサイテーかもしれないけど
あたしは、それほどヘンな負い目は無かった。客と風俗嬢っていう、この出逢いに。


アキオの部屋に初めて行った時は結構ウレシかった。
たしかに部屋は小洒落たワンルームって訳には行かなかったけど、
とりあえず下北沢まで歩いていける距離で
部屋の中もananに出てくるような感じに上手くまとめてあって
永遠のレゲエ少年だった彼は最も尊敬するボブマーリィやラスタカラー
フラッグを壁一面に飾り、至るところにアキオが作ったらしきビーズのジャラジャラが
垂れ下がり照明器具をすべてブラックライトに変え暗闇に発光するマリア象を
部屋の上部にあたかも神棚のように置いていた。


店の社長は、カッコイイって他のオンナの子にも評判いいから安心して行ってきなよ、
とか言ってくれたし、
たしかに、先輩のマドカさんも、まゆちゃんのタイプだよ、ゼッタイ、なんて言うし、
けっこう期待して、部屋のドアをノックした。


「こんばんわ」
他のアパートの住人になるべく聞こえないように小さな声で言って
人が出てくるのを待った。
するとすぐにドアが開き日焼けして渋谷系をオトナにしたような
痩せた長髪のオトコが出てきた。


「えっと、このまま入っても大丈夫ですか?」
「あ、うん、いいですよ。」
やさしく、そう言われて中に入った。
「えっと、まゆです。」
ゲーセンで作った名刺を渡して部屋の中を見渡した。
「まゆちゃん、ね。」
「はい、えっとコースはどうしますか」
「うんと、今日は1時間半で。」
「あっ、うれしいですぅ。それじゃ脱いでうつぶせになってください。」
「っていうか、まず何か飲む?」
なんか、いいひとだ、とても。あたしは評判通りでうれしくなって
今夜はもう他の客のとこに行きたくなかった。
あたしは差し出されたコーラを飲みながらへらへらとしゃべった。
「なんかananとか宝島に出てくる部屋みたいですねぇ。」
「えぇ、そおかな。」
「えっと、まゆちゃんっていくつ?」
「うわぁ、どうしよう、あははは。あのぉ、レゲエ好きなんですね。」
「うん。オレ、ラスタマンだから。」
「あたしは、テクノとか好きなんです、実は。教授とか。」
客とこんな話しが出来るなんてユメみたい、あははは。
「うっそー、じゃあ、けっこうオレと年近いんじゃない?案外。」
「うーん、そうかもしれないですね。」
そう言って話しをはぐらかして、あたしは、笑った。
「それじゃ、そろそろはじめましょっか。時間無くなっちゃうし。」
「そうだね。」


臆することなく全裸になったアキオの肢体は
キレイなほど境目もなくアイスティ色だった。
うつぶせになったアキオの背中にパウダーをふりかけ
ゆっくりマッサージしながら
お互い好きな音楽の話しや趣味の話しをした。
そして最後にローションを垂らしてフィニィッシュさせた。
終ってからアキオはタバコを吸いながらあたしに、
また呼ぶね、って言ってくれて
またコーラをくれた。
あたしはホントならいいな、って思いながらコーラを飲んで
お礼を言って部屋を出た。


それから程無くホントにアキオが呼んでくれて部屋へ行った。
また、いつものように、穏やかに話してコトを終えてなごんでいたら
アキオが今夜泊まっていけないかな、って言い出した。
あたしはうれしくなって店に電話して急にお腹が痛くなったので直接このまま帰る
と告げてあっさり許可が出たので、泊まることにした。


「ねっ、まゆちゃんはさ、何でこの仕事してるの?」
「はぁ…‥。」
「あ、いや、ごめんね。こういう仕事するようなひとにあんまし見えないからさ。」
それは確かに自分で言うのもおかしいけどそう思うし、よく他の客にも言われた。
でもアキオになら話したくなった。
「実は前に付き合ってた、しょうもないオトコの借金の保証人になっちゃって…‥。」
「ああ…、なっとく。なんかきっとワケあり、って感じしてた。」
「はぁ…。」
「でも、その人とは、もう切れてるんでしょ?」
「えぇ。というより、もうどこ行ったかわからないんです。」
「そっかぁ…‥。あのさ…えっと…名前…ホントの名前なんて言うの?」
あたしは一瞬戸惑った。
そうだ、でもこのひとには本当の名で呼んで欲しい。
「あの…菜見です。」
「どういう字書くの?」
「菜の花を見る…です。ちょっと名前負けかな。」
おどけて照れ笑いしたあたしをアキオは笑わず少し真剣に見てる。
そして、またタバコに火をつけて深く息を吸って吐き出しながら続けた。
「もし、よかったら、ここにずっといない?」
「えっ?」
「カノジョになってくれたらうれしいんだけど…。」
「…‥。」
こういうこと言う客はたまに居る。大概は客として、お金を払いたくないから言う。
でも、アキオもそうなのかな。そうじゃなかったらいいのにな。
あたしは、おずおずと訪ねた。
「あたし、こんな仕事してるのに…いいんですか?」
「うん、オレそういうのってこだわらないからさ。ダメかな。」
あたしはホントは日々つらかったからつい、うん、ってうなずいた。
アキオは黙ってあたしを抱き寄せキスしてくれた。
そして、お仕事抜きのホントのメイクラブをした。とってもシアワセなメイクラブを。


おなかがすいたあたし達は手を繋いで下北沢まで歩って行って
小さなイタメシ屋さんで食事をした。ワインを頼んで二人で初めてのカンパイなんてし て
“初デート”を楽しんだ。
「オレさ、犬もネコも好き。菜見ちゃんは?」
「あたしもどっちも好きだけど、どっちかって言えばネコかな。」
「いいよ、ネコだったら真っ黒のシュウっとしたネコに
 ラスタカラーのビーズで首輪作ってつけてやるよ。」
「あははは、ネコまでラスタなの?あたしには?」
ふざけてそう言ったら、アキオはジーンズの後ろのポッケをまさぐって
左手を出して、と言った。


あたしは黙って左手を差し出すとアキオは黙って
あたしの手首にブルーのトルマリンのブレスをつけてくれた。
「…‥ありがとう…。」
あたしはウレシくってそういうのがやっとだった。
このシアワセがいつまでも続いたら…‥そう思って少し泣きそうになった。


それからアキオとの暮らしが始まった。
あたしは簡単に身の回りのものを持ってアキオの部屋に転がり込んだ。


はじめは楽しかった。ふたりでいろんなとこ行っていろんな音楽聴いて
いろんな映画見ていろんなこと話した。
「いつかオレ小さくていいから庭のある家に菜見と住めるように
 がんばるからさ。そしたら犬もネコも一緒にね。」
そう言ってウレシイ未来予想図を聞かせてくれるアキオと、
アキオと過ごす時間がいとしくてたまらなかった。
つらい仕事のこともアキオといれば忘れることができた。


だけどやっぱりそうシアワセな日々は続かなかった。
アキオはだんだん仕事をしなくなってた。あたしはアキオを養うようになっていた。
あたしの財布からお金を抜いて、どこかへ出掛けてしまったこともあった。
なんとなく見えてた展開だったけど、それでも、あたしはアキオが
大好きだったからその日々を甘んじて受け入れてた。
アキオは、あたしが帰ってくるまでに食事を作って待っててくれた。
この人はきっと今までもそういう暮らしをしてきたのかもしれないと思うほど
いわゆるヒモ生活のツボを心得てた。
だけど、とうとう終りの日は来た。
あたしが具合が悪くなって店から早引きして帰ると
アキオは他の店からオンナの子を呼んでコトの真っ最中だった。
あたしは一度開けたドアを閉めて近くにファミレスに行って時間を潰して部屋に戻った。


もうダメかもしれない、
アキオ、あたしはこのままじゃアナタを憎んでしまうかもしれない。
戻ると部屋にアキオが一人でタバコを吸ってた。
何の言い訳さえもしないアキオがどうにもならなく思えた。


「アキオ、もう判るよね。もう限界だって。」
アキオは黙ってタバコを吸うばかりだった。
「今まで愛をくれて、ありがとう。」
あたしは荷物もそのままに、そのまま部屋を出て実家に戻った。
もうアキオを振り返らない決心をして。


それから数か月が過ぎた。
あたしはヤバい仕事から足を洗い何とか普通の仕事を見つけ生活してた。
アキオと暮らした短かかったけど愛しい時間のことを思い出すと
いつでも涙があふれてきたし
何度も死んでしまおうと思ったけど、アキオにいつかちゃんと生きてって欲しいって
言える自分になろう、と思って何度も踏みとどまって泣いて泣いて泣いて生きた。


そして、ある休日に家でビデオを見ていると下の窓に何かが当たる音がした。
えっ、なに?と思ってると、また音がする。
どうやら2階の窓に下から小石を投げてるらしい。
窓を開けて身を乗り出すと人が立ってる。アキオだった。
あたしは驚いて声も出ずただアキオを見てた。
するとアキオは何かのかたまりを思いきりあたしに向かって投げてきた。
何とかキャッチするとライターだった。
そのライターに何かがぐるぐる巻きつけられて 輪ゴムで止まってる。
あたしはそれを開いた。それは初めて二人で食事に行った
下北沢のお店のコースターだった。裏に文字が書いてあった。
見慣れた懐かしいアキオの字だった。




Only one!


Only love!




「菜見、クヤシイけど、やっぱりオマエがオレのたったひとりの大事なものみたいだよ。
 ずっと一緒にいる、ずっと。一緒に生きていこ。」
アキオは下からさけんだ。
あたしの名を呼ぶ声と、あまりにアキオらしいやり口に涙が途端にあふれた。
「おい、天気雨かよ。泣くなら降りてきて泣けよ。」
あいかわらずぶっきらぼうだけどヤラレタよアキオ。
アキオのバカ。憎たらしいったらありゃしない。
すごいムカつく。ムカツキ過ぎて愛しいったらありゃしない。


その日、ほんのちぃちゃな空間が天気雨のちどしゃ降り


そして晴れだった。